8.『とある新人漫画家に、本当に起こったコワイ話』

【メモ】コミックエッセイには「事実を描かなきゃいけないのか?」問題

更新日:

コミックエッセイ(実録漫画/エッセイ漫画/私小説漫画)には事実を描くべきかどうか?て話題が上がっているので、私の見解を述べます。

尚、『とある新人漫画家に、本当に起こったコワイ話』に端を発した議論ですので、知らない方は経緯を一読してからの方が理解しやすいです。

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コミックエッセイと事実描写について

「コミックエッセイ」の定義

「コミックエッセイ」
実録漫画/エッセイ漫画/私小説漫画も同じ意味という解釈で良いかと思います。

元々は「エッセイ漫画」の方が一般的な呼び方だったと思います。
メディアファクトリーが「コミックエッセイ」という言葉を推すようになって、「コミックエッセイ」の方が定着・一般化してきた感じです。

エッセイとは?

エッセー【essay】 の意味(出典:デジタル大辞泉)

《「エッセイ」とも》
1 自由な形式で意見・感想などを述べた散文。随筆。随想。
2 特定の主題について述べる試論。小論文。論説。
goo辞書より引用

随筆とは?

ずい‐ひつ【随筆】 の意味(出典:デジタル大辞泉)

自己の見聞・体験・感想などを、筆に任せて自由な形式で書いた文章。随想。エッセー。

随想とは?

ずい‐そう〔‐サウ〕【随想】 の意味(出典:デジタル大辞泉)

折にふれて思うこと。また、それらを書きまとめた文章。「随想録」

まとめると

コミックエッセイ=自己の見聞・体験・感想などを、筆に任せて自由な形式で書いた漫画

…で「自己の見聞・体験・感想」て部分がポイントになるかと思います。

コミックエッセイで創作が許されている部分

コミックエッセイで創作して良い部分というか、「ハッキリ描かないのが通例になっていること」として、名前があります。
特に育児漫画だと、子どもの名前は仮名(偽名)であることが多いです。

・「息子」「娘」と呼んで名前は出さない
・ごっちゃん、あーちゃん、など名前の一部は出すけど本名は出さない
・全く違う名前に設定する

『とある新人漫画家に、本当に起こったコワイ話』では編集者を「ボーノ氏」と呼んでいますが、これは特に問題はありません。帯などで「実名を挙げてすべてお見せします」と書いているのに編集者が匿名なのは少々引っかかりますが…。

『とある新人漫画家~』とねとらぼの件

佐倉色さんが漫画の中で描いた内容には事実誤認があると、「ねとらぼ」が抗議しました。

「ねとらぼ」の記事は目次だけでもこれだけあります。

要約すると、『とある新人漫画家~』での描写は事実誤認であるという抗議です。

「ねとらぼ」の抗議をもとに、Togetterやコメント欄でも色々な意見が交わされました。詳細はこのまとめ参照。
「ねとらぼ編集部の見解」と、それに関するコメント

コミックエッセイは全て事実である必要はないし、漫画だから誇張表現もあると思っていますが、事実確認や客観性もまた、大切だと思っています。

2ページの漫画を丸々転載

漫画にはこう描いてあります。

前も書いたけど、これは作者側、佐倉さんの事実誤認だと思います。

佐倉色さんがこのコミックエッセイを執筆した当時は、「ねとらぼ」の記事は削除されているので確認できません。
でもネット上に残っている「謝罪漫画」は確認できます。これは1ページ(1画像)しかありません。

【著作権侵害】『とある新人漫画家~』と『昆虫交尾図鑑』は編集者が同じです

後で公開された「ねとらぼ」記事で使用されている画像は、単行本1巻の表紙・謝罪漫画の切り出し・ブログのスクリーンショットなので3枚。これも数が一致しない。

「作者がそう記憶している」のは仕方ないですが、『とある新人漫画家~』は告発漫画なので、確認して事実を踏まえた方が説得力が増したと思います。その点は残念に思います。

『私たちは繁殖している』のフィクション宣言

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内田春菊さんの育児漫画です。単行本1巻は1994年刊行。
文庫版イエローの文章エッセイ部分で「本作品はフィクションです」と書いています。

フィクション宣言は、漫画の中でも描いていたと記憶してますが、その部分は見つけられませんでした…。

漫画で描かれた「フィクション」の説明としては「私と言うフィルターを通したのだから、実体験を描いているけどフィクションだ」(意訳)といった内容でした。

『毎日かあさん』の”エピソードはフィクションだった”という話

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先日最終回を迎えた『毎日かあさん』。
インタビューを読んだら「フィクションだった」と答えていました

西原理恵子さん 新作は「卒母した女性の悩みや第二の人生描きたい」(毎日新聞)より引用

--家族を題材にしつつも、漫画はあくまでフィクションでした。

実際、いろんなお母さんがネタをすごい持ってきてくれたんですね。

エッセイは「作者の見聞を元に描かれている」ので、他のお母さんから聞いた話(他者の体験)として描いていれば問題ないと思います。
でも、他者の体験を自身の体験として描いているとしたら、「エッセイ」の定義から外れる気がします。

インタビューは一部を切り取っているので私が勘違いしている可能性もありますが、作中のエピソードが創作されていた可能性があります。

『ど根性ガエルの娘』の事実と異なる演出描写

玄関にある壁の穴

2015年刊行のKADOKAWA版単行本の1巻に収録されている話(2017年発売の白泉社版にも同じものを収録)。

玄関にある壁の穴を秘密基地のようにして遊んでいた、というエピソード。

父が荒れていくのに従って、壁の穴は増え続けた、と描写されています。

父からのツッコミ

単行本描き下ろしで、父・吉沢やすみさんが「事実と違う」と訊いてきた、という小話が収録されています。

これに対して作者(大月悠祐子さん)は、実態はもっと酷かったことを述べたうえで”そのまま描くのはやめて(中略)創作エピソードで表現しました”と書いています。

事実とは違うけど、事実はもっと酷く、凝縮・演出した描写ということ。

父親が描いたエッセイ漫画『パパとゆっちゃん』

こちらも持っていますが、たしかに壁の穴は玄関に1つだけです。穴は父が蹴って出来た、ということも描かれています。

『パパとゆっちゃん』は「吉沢すみ」ではなく「吉沢すみ」が主人公の漫画です。設定も事実と違っています。

娘・ゆっちゃんは小学1年生。息子・やっちゃんはゆっちゃんの7歳上。漫画の設定では年の差が大きい兄妹です。
『ど根性ガエルの娘』によれば、姉・ゆっちゃんと1歳年下の弟・やっちゃん。事実は1歳差の姉弟です。

作品を連載していた時期が1991年~1994年頃なので仕方ない気もしますが、こういう例もあります。

フィクション系コミックエッセイ?

内田春菊さんの使う「フィクション」とは意味が違います。人物、エピソードを含め、すべて創作されたコミックエッセイ。

私の認識では、KADOKAWAメディアファクトリー系のコミックエッセイだけに起きている現象で、描いているのは野原広子さんとおぐらなおみさんに限られています。

レタスクラブの『私の穴が埋まらない』

おぐらなおみさんによる、セックスレスをテーマに描かれた漫画です。
説明文に「フィクションコミックエッセイ」とあります。

コミックエッセイ劇場の一番人気はフィクション作品

KADOKAWAの「コミックエッセイ劇場」はよく読みに行くのですが、デイリーランキング1位は常に野原広子さんの『離婚してもいいですか?』(フィクション)です。

人気があることは悪くありませんが、実録系漫画と勘違いして読む人も多い。
amazonレビューの★1で多数指摘もされています。

野原広子さんの単行本の内容紹介はこんな感じで変化しています。1冊目は実際の体験なので別です。

『ママ 今日からパートに出ます!』(2014年1月刊)→コミックエッセイ
『離婚してもいいですか?』(2014年8月刊)→特に記載なし
『ママ友がコワイ』(2015年8月刊)→セミフィクションコミックエッセイ

「コミックエッセイ劇場」にも「レタスクラブ」にも特に注意表記なし。
「コミックエッセイ劇場」は名前からして誤解を生むし、「レタスクラブ」はコミックエッセイの並びに配置されている。「フィクションです」て注意表記してよい話だと思うけれど。

また、無理に「コミックエッセイ」と呼ばず、単純に「漫画」「コミック」との表記で良いとも思います。

まとめ

コミックエッセイは人気のジャンルとは言え、こうなってくるとちょっとなあ…。
作者・編集者・サイト運営者のモラルとは…(遠い目)

私はコミックエッセイに「事実だけしか描いちゃいけない」とは思っていません。『ど根性ガエルの娘』のような演出はあっていいと思いますし、漫画ならではの表現もあって良い。

でも正直、ちょっと危険な感じがするんですよね。誤解が膨れて読まない人も増えるのではないかと。

現在のままだと『西遊記』も『三国志』も、4コマや8コマで読みやすく表現したら「新感覚!セミフィクションコミックエッセイ!」てなりますね。そんな漫画、誰が読むのでしょうか。

そうなる危険性に気付いてほしいと思っています。

話がズレた感がありますが、この辺で。それでは~。

※8/5追記:
『透明なゆりかご』(沖田×華)も私の中では創作漫画扱いです。主人公は作者の名前ですし、実体験がベースにあったとは思いますが…。

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